教会長の言葉

春季の彼岸会を迎えます

1. 仏知見を開く

 羽生()(づる)さん。細身でか弱さもあった少年が、いつしか日本だけでなく世界中の人に感動と希望を与える、フィギュアスケート界に燦然(さんぜん)と輝きを放つ選手となりました。3月9日の富山新聞「東日本大震災10年」特集で「暗闇の中 星に希望」という記事に彼のエピソードがまとめられています。

天才スケーターの人生は「3・11」で変わった。仙台市の自宅は全壊判定となり、家族4人で4日間の避難所生活も経験した。被災したリンクも一時閉鎖に追い込まれ…云々とあり…末尾で羽生さんが昨年4月に日本オリンピック委員会(JOC)に投降した動画の一部として、「3・11の時の夜空のように、真っ暗だからこそ見える光があると信じています」と願い、コロナ過と震災を重ね合わせた…と締めくくられています。

 唐突かもしれませんが、お釈迦さまが悟りを開かれた時、明けの明星(金星)が輝いていたとあります。

 この光を得て、この世にお出ましくださったお釈迦さま出生の一大事の因縁が確信として開かれたことであろうと受けとめています。同じように羽生さんも、生死を分かつ3・11の際に見た夜空の星の光をきっかけ(機縁)として、この世で果たすべきかけがえのない大事な因縁が開いたと思われるのです。心の奥深いところで、ご自身のめざすべき生き方がはっきりと見えたのではないでしょうか。

  「仏知見を開く」とは、こうした難儀な中において、「自らのいのち」を生かす、これまでにない見方と能力が開かれる瞬間があるとも受け取れます。

2.「お彼岸」を機縁に「仏さまの立場で見る」習慣の大事

 お彼岸は、お墓参りやご宝前、仏壇等にお供物をささげて荘厳にし、お戒名の読み上げ、ご供養を通じて、故人の懐かしい思い出を語り、ご先祖さまに感謝し平安を祈ると共に、いまある「いのち」に感謝する春秋の法会です。

 会長先生ご法話(佼成3月号)をかみしめますと、「悉有仏性」……生きとし生けるものはみな、仏と同じ本質を具えているにもかかわらず、人の好き嫌いに 左右されたり、噂(うわさ)や偏見に基づくレッテルを貼って人を評価したりしがちです……暗闇の中で光に出会うとは、互いの仏性を信じ、拝み合う縁に出会い、「不思議の能力に導かれる」ことにも通じるのではないでしょうか。

 昨年からのコロナ禍の影響下、私たちは「各家庭」においてお彼岸の供養がもたれることを大事にしています。各ご家庭で、ご先祖さまとゆっくり対話し、ご家族皆さまの“いのち”の尊さを信じ、絆を深める機会にしたいと思います。

令和3年3月11日               

高岡教会長 荒川公男